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2004/11/17

西洋人形    ( 1-14 )

seiyouningyou この飲み会には高橋さんという人が来ていた。 高橋さんは「満州」で奥さんと娘さんを亡くしたという。 その亡くなった娘さんが、私と同じ年頃だというので、高橋さんは私のことをとても可愛がってくれた。  といっても当時の私は、恥ずかしがり屋で、家族以外の人の前に滅多に出ていかなかった。 母がなだめすかして高橋さんのそばに連れて行くと、高橋さんは、ある時は真っ赤なスカートをはいた西洋人形、又あるときはピンクの可愛らしいバックをプレゼントしてくれた。 前にデパートで見たことはあったが、高価そうで私には縁の無いものだと思っていた。
                                               
  ずっと後になって知ったことだが、高橋さんはとても悲しいニュースをその時母に告げていた。 母には妹が二人いた。 信子おばさんと鶴子おばさんだ。 信子おばさんは、「満州」の地方官吏をしている人と結婚し、「満州」に渡った。 パッチリとした目をしたおばさんそっくりの八郎ちゃんや、その他の従兄弟が写っている家族写真を見たことがある。 戦後、鶴子おばさんは、どうにか引き上げてきたが、信子おばさんの消息は分からず、母はずっと心を痛めていたようだ。 その母に高橋さんの口から伝えられた事実は、かなりつらいものだったと思う。

 敗戦濃厚の「満州」に、突如ソ連軍が国境を越えて攻めてきた。 国境近い町に住んでいた信子おばさん一家は、町の人達と共に、避難を開始した。しかし数日後にはソ連軍に追いつかれ、大多数の人が命を落とす中、おじさんは、信子おばさんと子供達の命を絶ち、直ちに自刃して後を追ったという。

 私がこの話を知ったのは、その後三十年経ってからだった。 日中国交が回復し、残留孤児の帰国が始まろうとしていた。 ある日、母と上の姉が、テレビを見ながら話していた。 
 「八郎ちゃん達、ひょっとして残留孤児の中に入っていないかしら」
 姉の言葉に、母は力無く首を振った。
 「最後を見た人が、報告してくれたんだから無理よ」
 そう言いつつ、母の目はテレビに次々と映し出される孤児の顔を、食い入るように見つめていた。


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