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2004/12/14

チ ビ       ( 2-13 )

 数年するとクロも大人になった。 当時、私は二階の東南向きの部屋を使っていた。 この部屋は初めは長兄、長兄の独立後は次兄、そして次兄が就職して地方に行った後、私が使用していた。 その部屋の北側は押し入れとなっていた。 私は上段を改造してベッドに、下段はカーテンをつけて物入れに使っていた。 ある日、そのカーテンの中へクロが入って、ゴソゴソしていたが、そのまま出てこなかった。 私は用事で階下に降りていくついでに、カーテンを開けて覗いてみた。
  「クロ、そんな所で何しているの」
 驚いたことに、クロは四匹の子猫のお母さんになっていた。 まだ目が開かない子ネズミみたいな赤ちゃんを クロは丁寧になめまわしていた。

 しかし、数日のうちに、次々と三匹死んでしまった。 初めてのお産で、クロも慣れていなかったのだろう。 残された一匹はスクスクと育った。 きれいな毛並みのキジトラで、シッポが体の長さと同じくらい長く、先まで真っ直ぐにスラッと伸びていた。 私はそんなに見事な子猫のシッポを それ以前見たことがなかった。 私はこの子猫を “チビ” と名づけた。 クロはチビをとても可愛がった。 私がチビをかまっても 機嫌を悪くした。 いつも一緒に行動していた。

 チビの運動神経は、クロを上回っていた。 親指ほどの小枝でも、難なく登ってしまった。 まるでリスが枝の上を駆け回っているように見えた。 それから数ヶ月して、クロが又子猫を産んだ。 それも四匹。 今度の子猫は準備期間が短かったせいか、毛並みがひどくバラバラだった。 顔半分が黒で、半分は茶トラだったり、口の回りが黒くて、その他はホルスタインみたいだったり、まるで一貫性に欠けていた。 その上、シッポは四匹とも短くて、しかも先端が曲がっていた。 どうしよう。 これじゃ、誰も貰い手が見つかりそうにない。 といって家で皆飼うなんて言ったら、母はびっくりしてしまうだろう。 クロとチビ、それに他の生き物の世話で、私は手一杯だった。 悩んでいる内に子猫はどんどん大きくなった。 目はパッチリ開き、庭を駆け回って遊ぶようになっていた。 どうにかしなければ。

 その頃、私の頭の中では “捨て猫” という言葉が、行ったり来たりしていた。 可哀そう。 でも当時の東京には、まだ野良猫の生きる十分な空間があった。 我が家にも、クロの友達の野良猫の何匹かが出入りしていた。 近所でもよく見かけた。 自分で生きる道を探して。
 私は意を決して、ある日、四匹の内三匹をカゴに入れて家を出た。 行き先は多摩川。
その川岸の草の茂みにそっと三匹を置くと、私は心を鬼にして、ミャーミャーという声を振り払うようにして、その場を去った。 あそこなら野鳥や虫も多いし、空間も広いから食べ物も探しやすいと、何となく自分に言い聞かせていた。

                               chibi
      チ ビ        

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