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2004/12/17

ミ ケ       ( 2-14 )

 クロは残された一匹を、前にもまして可愛がった。 三毛猫だったので “ミケ” と名づけた。 これで万事うまくいくと私は安心していた。 ところが、その内にチビが家から姿を消した。 私は迷子になったのかと心配して、近所を探し回った。 家から程遠くない家の前でチビを見つけて、ホッとして家に抱いて帰った。
 「ほら、チビを探してきてあげたわよ」

 私はクロが大喜びで、チビに近寄るものと思っていた。 次の瞬間、私は自分の目を疑った。 クロが突然、体中の毛を逆立てて、シッポまで、いつもの四倍くらいに太くして、フギャーとチビに飛び掛かった。
  「どうしたのクロ」
 私がクロを止めようとした時、チビは後をも見ずに、我が家から飛び出していった。 その後何回か、以前見かけた家のそばでチビを見かけた。 その家の庭の芝生で寝そべっていることもあった。 “器量良し” のチビは、どうやらその家に安住の住家を見出したようだった。
 
 動物の世界は厳しい。 きっとクロは、チビの独立の時期を知っていたのだろう。
その後、クロとミケの平和の日々が続いた。 ある日私は、家の前の道で、子供たちが騒いでいる声に気がついた。
  「子猫が死んでいる」
 私は不吉な予感に襲われ、二階から階段を駆け下り、サンダルをつっかけ、玄関から外に飛び出した。 道の隅にミケが横たわっていた。 その体をクロが一生懸命なめまわしていた。 幸い、ミケの体はきれいだった。 跳ね飛ばされたのだろう。 キズらしいキズも見当たらなかった。

 私はミケの亡骸を庭に運び、クロがいなくなったスキに庭の一隅に埋めた。 早くクロに忘れて欲しかった。 それからしばらく、クロにとっても苦しかっただろうが、私にとっても苦しい日々が続いた。 私はクロの子猫には、もうコリゴリしていた。
 “避妊” 、以前どっかで聞いたことがあったこの言葉が、脳裡を横切った。 野良猫、野良犬の増加を防ぐため、都では避妊を奨励している。 こんな内容を新聞か何かで読んだことがあった。 その時は、気にも止めなかったが、ここにきてこの言葉が救いのように浮かび上がってきた。
 そうだ、クロに避妊手術をしよう。 そういえば、クロはこのところ、精神的疲れのせいもあろうが、短期間の二度の出産で、体力を消耗したみたいだった。 以前の黒光りしていた毛のつやもすっかり無くなっていた。 動きも心なしか鈍くなっていた。

 私は保健所に電話して、避妊手術をしてくれる病院を聞き出し、クロをカゴに入れ、山手線の、とある駅を目指した。 その駅の改札口を出る瞬間、クロがニャーと鳴いた。 改札係は耳ざとかった。
  「猫を連れてますね。 猫の乗車券を頂きます」
 その時、三倍取られたか、人間並みだったかは忘れたが、その後に続く手術代、帰りのタクシー代と私にはかなりの出費だった。 麻酔からさめず、手足を硬直させて、腹に包帯を巻かれたクロは痛々しかった。 その後数週間、包帯が取れ、すっかり毛も生え揃って、また元気に走り回るまで、私の心は重かった。 私のした事は、クロにとって良かったのかどうか自信がなかった。

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