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2005/01/13

友人        ( 3-2 )

 O校に入学してしばらくすると、私の日記帳にはこんな言葉が並んだ。
 「私は生まれて初めて、本当の友を得た。 その人の名はAさん」
 「Aさんは日記を英語で書いているという」
 「Aさんはピアノの演奏がうまい」
 「Aさんは話していてすごく面白い。 ユーモアのセンス溢れる人だ」
 「私はAさんが好きだ」
 そして、数ヶ月後、私の日記にはこんな記入がなされている。
 「Aさんなんか大嫌いだ」
 「もうAさんとの友情は終わった」

 私の心がこうも変わった原因は、ごくつまらない事だった。 いつもの様にAさんと昼食を食べに行こうと思って、Aさんの所へ行くと、Aさんは、Nさんと愉快そうに話していた。 私はしばらく二人のそばで所在なげに待っていた。 随分長い時間に感じた。 おしゃべりに夢中になっていたAさんが、私に気づき、「じゃ皆で食事にいきましょう」と言った。 その時、私は機械仕掛けのように、Aさんに背を向けた。
 Aさんがびっくりして呼ぶ声を後に、私は図書室に駆け込んだ。涙が溢れてきたので、誰にも見られたくなかったのだ。

 Bさんとの場合はこうだった。
 ある日の帰り、都電を待っていた私に、Bさんが紙切れを渡した。 後で読んでという。
 それには、「以前から友人になりたかった。良かったら付き合ってください」
という内容が書かれていた。
 以前からBさんとは面識があったが、余り話したことはなかった。 Bさんは、何でも突き詰めて考えるのが好きな人だった。 英語の文法でも、疑問があると図書室で分厚い辞書で調べ、それでも分からないと、職員室で先生に納得出来るまで質問した。数学では、その頃は“0の起源”に興味があり、分厚い英語の原書を読んでいた。二進法だ、三進法だと、私を議論に巻き込みたがった。
 
 私は、今まで考えたこともなかった新しい世界に、興味は湧いたが、その頃の私は文学の方により興味があった。それでも二人は休み時間も、昼食の時も、いつも一緒でよく議論した。 私はこれが親友というものかなと思った。

 ある日、私はまた彼女から一通の手紙を渡された。 それには、私との交友に疲れたからもう別れよう、という内容が書かれていた。 読み終わった私は、一瞬、心臓が硬直したような気持ちがした。 なぜ、どうして、私のどこがいけなかったのだろう。私は彼女に聞く勇気も出ず、そのまま私達は別れた。
 それから何年も経って、突然彼女から電話があった。 一度会いたいというものだった。

 私達は、渋谷のある喫茶店で待ち合わせた。 Bさんは、ハンドバッグから1枚の写真を取り出して、私に渡した。 それは自由の女神を背景に、ピンクのスーツ姿のBさんだった。 軽くウエーブした髪をポニーテールにして、写真の中で、にっこりと笑っていた。
 「私、今通訳の仕事しているの。 アメリカにも何回か行ったわ」
 すっかりあか抜けしていて、センスの良いスーツ姿で、口にはうっすらと口紅を塗っていた。 
 「あの頃、私のエネルギーの源はあなただったの」
 私は、しばらくぽかんとして彼女の顔を見つめた。 それなら何で、あんな手紙を私によこしたのだろう。 あの後、私は随分苦しんだ。 私は一瞬彼女に聞きたいと思った。 でもやめた。 そう、あの頃、私達は“思春期”だったのだ。

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