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2005/01/24

東京オリンピック ( 3-5 )

  この年、10月10日から二週間、東京オリンピックが開催された。 抜けるような青空の下、国立競技場の開会式から始まって、我が家でも皆テレビの前に釘付けになった。 オリンピックにあわせて、テレビもカラーに買い換えられていた。
 私もテレビ観戦の強い誘惑と戦って勉強するより、二週間の停戦を選んだ。

 女子バレーボールの快進撃には胸が躍った。 以前から血のにじむような練習風景を、何度もテレビで見ていたので、回転レシーブで必死に球を拾う姿には、胸が熱くなった。 そして“東洋の魔女”日本女子バレーボールチームが優勝したときは、心から拍手を送った。
 もう一つ私の印象に強く残ったのは、マラソンでのアベベの優勝だった。 幸いマラソンコースに甲州街道が入っていたので、私は充分な時間を見て幡ヶ谷に出かけた。
それでも駅周辺は、既に幾重にも人垣が出来ていた。 何とか道路が覗ける場所を確保すると、私はひたすら選手の到着を待った。 しばらくすると遠くから、潮が満ちてくるようなどよめきが伝わってきた。 それは大きな歓声となって周囲を包み、人垣の間から一人の褐色の選手が悠然と走ってくる姿が見えた。 
 「アベベだ!」
 呼吸の乱れも感じさせず、ただ黙々と走り去った。 大分遅れて日本選手が来た。
疲れが体中から感じられた。 思わず声援を送った。

 その日の夕方から、私は毎日走ることに決めた。  幸い、近所の公園に隣接してグラウンドがあったので、夕闇迫る頃、私はポチを連れて出かけた。 ポチは我が家の代々の犬の名称として定着していた。 この時期のポチはちょっと頼りないが、極めて性質の良い、茶色の毛が少し長めの雑種犬だった。 私が走っている間、ずっと柵につないでおいたが、文句も言わず待っていてくれた。
  最初の数日は、私の意気込みに反して、走りは極めて惨めだった。一周もしない内に、息切れして心臓が飛び出しそうになり、胸が痛くなった。
 それから数週間、遅々とではあったが私の走行距離は伸びていった。走り終わると、体中から汗が吹き出て、実に爽快な気分だった。 汗をかくってこんなに気持ちがいいことなんだと、この数年間ほとんど忘れかけていた記憶がよみがえってきた。 頭の中までスッキリした気分だった。 将来マラソン選手になるのも悪くないな、なんて考えたりした。

 時間は瞬く間に過ぎていき、また受験の季節を迎えた。
 二度目の受験を、私は東大理科Ⅱ類と決めた。

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