« 2.初めての迷子  続 | トップページ | 3.パパの三つの名前   続 »

2006/03/06

3.パパの三つの名前

汽車は2日半、ガタゴトガタゴトと長旅を続けた後、思いがけない出来事で疲れ果てたものの、再会の喜びに胸躍らせる母を乗せて、父の待つ町につきました。

母は大小の手荷物を抱え、一方で私の手を引いてホームに下りました。 その時、遠くから一人の軍人がサイドカーに乗り、後ろに45人のオートバイに乗った兵士を従え威風堂堂とこちらに疾走してくるのが見えました。その人たちはとてもかっこよくて周囲の注目を集めました。母は大声で

「文明(ウエンミン)!」 と呼びかけて手を振りました。先頭のその人は、すぐにエンジンを全開にして、程なく私達の前で “ガタッ” と止まります。背が高く、肩幅が広くて、とてもがっしりとした人でした。大きな帽子の下から、私をじっと見つめた力強いまなざしは今でもはっきりと覚えています。

 

 ママは直ぐに、私を前に行かせようと背中を押しました。

「パパって呼ぶのよ!早くパパって言いなさい!」

 私は、その人の名前は “パパ” というのは納得しましたが、恥ずかしかったので少し後ずさりしました。その人は、一歩私に近づくと、笑いながら、その大きな両手で私の腰をしっかり掴み、私の身体を引き寄せると、待ちかねたようにいいました。

「私がパパだよ!忘れてしまったのかい?」

これが、私にとっては、父との初対面の瞬間でした。

この時、単車に乗っていた兵士達も皆追いつきました。彼らは。ママの手荷物をすぐもってくれると、父を “隊長”と呼び、その後の指示を仰ぎます。私は “パパ”と呼ぶよう言われたのに、母は “文明”と呼ぶし、他の兵隊さんは “隊長”と呼びます。人によって、呼び方が違う父は、なんだか不思議な人に見えました。

 いろんな人にもみくちゃにされ、何が何だか分からないうちに、私は父のバイクに抱き上げられて、又風の様に走り出していました。汽車以外の乗り物に乗ったのは初めての経験でしたが、楽しくって、ちっとも怖くありませんでした。

 父の駐屯地は、湖に面して平屋がコの字型に並んでいましたが、当時の私にとって、この湖はとても大きく感じられました。私達は、湖に近い角部屋に滞在していましたが、部屋のドアを開けると、兵士の訓練の様子を見る事ができました。時には、タイヤで作った小船で湖上訓練をしている事もありました。

  毎日早朝、父は起きると、制服をバシッと決め、朝練に出ました。私は、興味津々で、ドアを開け見ていました。練兵場の中央には、兵士達がすでに、不動の姿勢で整列しています。父が、隊列の前で、号令を掛けると、一斉に返事が返ってきます。何十人もの若者の声が練兵場に響き渡っていました。

 私は、父と他の兵士のやる事が何故違うのか、あるとき母に聞いてみました。

「パパは隊長だからよ」

この後、私は隊長が偉いだけでなく、隊長をパパと呼ぶ私も、何だかとってもえらくなったような気になりました。

                                  ( 続く )

|

« 2.初めての迷子  続 | トップページ | 3.パパの三つの名前   続 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 3.パパの三つの名前:

« 2.初めての迷子  続 | トップページ | 3.パパの三つの名前   続 »