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2006/03/10

3.パパの三つの名前   続

この時期、私のように、部隊のお父さんに会い来た子供は他にも何人かいましたが、来る列車の中でみんな、とっくに友達になっていました。兵士が使用していない時は、練兵場は、駆け回ったり、ふざけたりできる私達の楽しい遊び場になりました。兵士たちも暇な時は、一緒に遊んでくれました。


 ある時、私が、訓練用の縄梯子をブランコ代わりにしていると、高く高く揺らしてくれました。他の子供たちは、下のほうでうらやましがって叫んでいます。私は本当は、怖くて心の中では

「早く停めて!」と叫んでいたのですけれど、そんなことはおくびにも出しませんでした。私は地面に降りるなり皆に言いました。

「私、空高く飛んだよ。空の真ん中まで行ったよ!」友達はすっかり感心して聞きます、

「本当?空の真ん中ってどんなだった?」

「空の真ん中は、海のように青いよ。水の中みたいに冷たかったよ!」そんなわけで、みんな空の真ん中は青くって、冷たいとしばらくの間信じていました。何しろ私が体験したんですから!

 そんなある日、たぶん夕方だったと思いますが、背の高いがっしりとした体格の男の人が私の家に来ました。父とその人は部屋の中で、何か立ち話しています。父はとても緊張して、身体もしゃきっとして、その人の質問に大きな声で恭しく答えています。しかも答える度に“報告首長!(上官殿、報告します)”といちいち始めに言うのでした。こんなおしゃべりの仕方を見たのは初めてでした。何で父がこんなに緊張しているのか知りたくなったので、ゆっくり近づいて二人の顔を見上げました。


 その“上官 ”と呼ばれていた人は、私に気が付くと、にっこりして穏やかに父に言いました。

「君の娘さんだね、とても可愛いね」父はすぐに気を付けの姿勢をとると答えます。

「報告首長!これは私の娘であります」

「君は女の子一人なの?男の子はいないのか?」

父は又気を付けして言います。

「報告首長!我が家には男子はおりません。女子一人のみであります」


 私はそばで聞いていて、とても変に思いました。父が子供のことを話しているのが分からなかったので、家には父という立派な男の人が居るのに、と思ったのです。

「家に男の子いるじゃない!」といって父を指差し更に付け加えました。

「パパは家の男の子でしょ」

 父の顔は真っ赤になり、私を後ろに押しやるといいました。

「報告首長!子供が訳の分からないことを行って申し訳ありません」

 その後上官が立ち去った後の父の反応は、今でもはっきりと覚えています。父はそのまましばらくの間、無言で立ち尽くしていました。それから突然、怒りが爆発したように顔を真っ赤にして、腕を振り上げると私を平手で打ちました。

「今後、大人の話にでしゃばるんじゃない!」

 私はわっと泣き出しました。痛かったというより、父が怒っている事が怖かったのです。人にぶたれた初めての経験でした。

 父の激怒の原因は、私が大人の話にでしゃばったという事より、他人に「女の子だけで、男の子が居ないのか」といわれた事だったように思います。これは父にとって、最も耐え難い屈辱的な事だったのでしょう。

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