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2006/03/03

2.初めての迷子  続

 当時普通の庶民にとっての交通手段は、汽車と自転車しかありませんでした。汽車が出てしまって、二時間も経っているのに、自転車で追いかけろというのでしょうか。


 周囲もすっかり暗くなっていました。気が付くと、もう私を寝かしつける時間になっていました。母を捜して、きっと私が泣き叫んでいると想像するだけで母の胸はつぶれる思いでした。 それに、もし無事に目的地に着いたとしても、娘をほったらかしにした母を、父がどんなに怒るか想像しただけでも、母は悲しくなりました。とうとう地面にしゃがみこんで、大声で泣き出してしまいました。


 母の、余りに悲痛な様子に、駅長さんが動いてくれました。母を慰める一方、幾つかの駅に電話して、私達の列車の現在位置を確かめ、急行列車に無料で乗せてくれたのです。翌日の早朝、母は無事私に会えました。

 母は、目を泣き腫らし、私に駆け寄り私を抱きしめました。でもその時、私は誰がくれたのか分かりませんが、おいしい朝食を口いっぱい頬張っていたのです。一瞬のどに詰まりそうになりました。

 母が居なくても、みんなが変わる替わる相手をしてくれたし、機嫌を取ってくれたし、とっても楽しかったのです。何で母が、こんなにひどく泣いているのか私には、どうしても理解できませんでした。


 後になって、この時のことを思い出すたびに、母は不満そうに言います。

「 浩は、おいしいものや、面白い事の方が,ママより大事なんだから・・・」

 この出来事は、確かに大変な事ではあったのですが、あの汽車の旅で、私があんなにみんなに可愛がられ、大事にされたのは、母の“ 初めての迷子 ”のおかげでした。今思い出しても幸せな気分に包まれます。

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