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2006/03/29

6.飴泥棒 (浩さんの物語)

 駐屯地の隅に小さな飴工場がありました。ミルクと飴の混ざり合ったなんともいえない香りが、いつも腹ペコの餓鬼集団を、居ても立ってもいられないほど強烈に誘惑していました。母に飴を買うお金をおねだりするなんて、正月でもないのに考えられません。でも飴が、鼻水よりおいしいぐらい誰だって知っています。

私達は鼻水をたらしながら、いつも飴工場の傍にたむろし、中を覗いていました。

作業場はそんなに広くなく、中央に大きな、長い作業台がありました。10数人がそれを取り囲み、台の上になにやら白い粉を撒き、その上に柔らかな飴を乗せ、麺を練るみたいに練り上げ、ゆっくりと伸ばしていき、最後に包丁で大小均等に切り分けていきます。全体の流れは、祖母が家でやっていた餃子の皮作りにとても似ていました。

 男の子達は、鼻水をすすりながら、横に一列に並び、飴工場の入り口に張り付き、私もその中に割り込み、一心不乱に中を覗き込みます。それなのにおばさん達は誰一人、私達に飴を分けてくれません。このようにして、冷たい風の吹きすさぶ中、毎日毎日、辛抱強く待ち続けました。飴工場のおばさん達の気を引こうと、思いつく付く限りの事は全部やってみました。例えば・・・

 大きな声で歌う。

喧嘩のまねをして、大騒ぎする。

お腹を擦りながら「あー、腹減ったなー!腹減り過ぎて、お腹痛いよ!」という。

でも、どんなに知恵を絞っても、飴はもらえず、冷たい風の吹きすさぶ中、鼻水はますます垂れてくるし、なんとも惨めな気持ちになりました。

 ついに、私達の中では年かさの男の子が言いました。

「おばさんたちが、くれないんなら、自分達でとってこようよ!」

「自分でとってくるて、それ泥棒するってこと?そんなことしたらママに怒られるよ」私は懸命に反対しました。

「盗むんじゃないよ!みてご覧、飴を作る時、台にいっぱいこびりつくだろう。それをみんなではがせばいいんだ!」

言われてみれば、台の上には、厚い飴の層ができています。

こうして、年かさの男の子の発案に従い、次の日の昼休み、作業員が昼ごはんを食べに出て行った後、私達は飴工場に侵入しました。

 その飴作りの台は私が想像していたよりずっと高く、背伸びをしてやっと台の上を覗く事ができるのでした。飴はかなり厚く固まっていて、ちっとやそっとの事ではびくともしません。これは予想外の事でした。年上の男の子の指揮下、私達は手分けして道具を探しました。敷地内には、道具どころか、鉄片や、ガラスの欠けらさえありません。そこらじゅうずいぶん探し回った末、丈夫そうな数本の枝を見つけました。しかし枝は泥だらけです。でもそのときは、泥なんかちっとも気になりませんでした。                                             ( 続く )

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