« 雑木林は花盛り | トップページ | 9.おじいちゃんと豚  続 »

2006/05/01

9.おじいちゃんと豚

これは私が父に会いに軍隊に行く以前の話です。未だ幼かったのですが、記憶は鮮明に残っています。

 当時、食べ物の供給は限られていて、家族の人数に応じて、毎月の粮票(食料交換券)が配られ、それに応じて購入量は決められていました。特に白米、小麦粉、白砂糖、豚肉、大豆油などはとても貴重なものでした。

 祖母の家は人数も多く、又毎月の配給さえ確実に手に入る保証もないので、祖父は対抗策を考えました。祖母の家に面して、緑の塀に囲まれた小さなトサツ場があって、時々付近の食堂の主人が安く仕入れた数頭の豚を、ここで従業員に処理させていました。祖父は、仕事の合間にここを手伝う事にしたのです。

 初めて“殺豚事件”に遭遇したのは、ある夏の正午のことでした。その日はうだるような暑さで、私は友達と一緒に家の前の石のベンチに座って静かに絵本を見ていました。その時一台の汚れたぼろいトラックがブブッと警笛を鳴らしながら傍を通り過ぎていき、埃が巻き上がって、顔に吹き付けられたので、私達は手で払いながらブツブツ文句を言っていました。

 突然誰かがトラックを指差して大声で叫びました。

“見てごらん!車の中に豚がいるよ!”

豚が見れるなんて、町に生活している子供にとっては、めったにめぐり合えないチャンスです。みんなで車を追いかけました。突然、あの緑色の塀の前で停車したので、私達はすぐに車を取り囲み、中を覗きました。

 雪のように真っ白な、丸々太った二頭の豚が、大きな頭をゆっくりと揺らしながらあっちこっち眺め回しています。いかにも機嫌よさそうに見えました。もしかしたら、これが彼らにとって初めてのドライブで、道中いろいろなものを見れたせいかもしれません。

 私達を見ると、大きな耳を揺らしながら、嬉しそうに近寄ってきました。私が手を伸ばすと、厚ぼったい鼻を摺り寄せてきます。その鼻はヒヤッとしていて、鼻水でぬれていました。よく見ると、ふっくらした顔のなかの細い目が、上目使いにまるで笑いかけているようです。

 私達は“よしよし”とかまいながら、彼らに名前をつけました。1頭はとても太っていて全身だぶついた皮が輪っかのようだったので“円円”、もう一頭はとても白かったので“雲雲”と名付けました。

                                       ( 続く)

|

« 雑木林は花盛り | トップページ | 9.おじいちゃんと豚  続 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 9.おじいちゃんと豚:

« 雑木林は花盛り | トップページ | 9.おじいちゃんと豚  続 »