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2006/05/05

9.おじいちゃんと豚  続

        

 私達が円円、雲雲と仲良く遊んでいると、あの緑の塀の門が開いて、中から二人の男の人が出てきました。二人とも、黒いゴム製の地面まで届きそうな長い前掛けを掛けています。歩くたびに、硬そうな前掛けはパタパタと鳴ります。

“何してるの?おなかすいたんだろう!ちょっと待ってろよ、直ぐに始末して肉を食わせてやるからな”前掛けをした人が言いました。

“始末する?”

“肉を食べる?”

私達は、一瞬呆然としました。どうしてそんな事ができるんでしょう。どこかで間違ってしまったようです。

“僕たちおなかすいてないよ、あの子達を食べたくないよ。お願い、殺さないで!”私達の中で少し年上の子が大声で叫びました。この時、私にも事の次第がはっきりしてきました。

“本当だよ、あの子達とっても可愛いよ。私たち一緒に遊びたくて付いてきただけだよ。おなかなんかちっともすいてないよ。あの子達を殺さないで!”そこにいた子供達が一斉に叫ぶ中、二頭の豚は、何が起こっているのか分からないという感じで頭をかしげ、しっぽを振って私達に愛嬌を振りまいていました。

 突然温かな、力強い大きな手のひらが、私の頭をなでました。振り返ってみると、祖父でした。祖父もさっきの男の人と同じようなゴムの前掛けをしています。

“浩ちゃんは豚肉大好きだろ、これは豚なんだ。これを殺さないで、浩ちゃんどうやって肉を食べるの?いい子だから、早くお家に帰りなさい。ここは子供が遊ぶとこじゃないよ。おじいちゃんが豚肉もって帰るのを待っていなさい”

 私はいままで、豚肉と今目の前にいる円円、雲雲を関連付けて考えた事がありませんでした。急に恐怖といいようの無い罪悪感が沸いてきました。

 円円と雲雲は耳を振り、お尻をくねらせ悠々とわたしたちの前から遠ざかって行きました。その様子は、今でも脳裏に強く焼きついています。

 緑色の門が閉じられました。ほどなく、中から鋭いヒステリックな叫びが聞こえました。私達は塀にへばりつき、必死に隙間を探し中を覗こうとしました。そのとき分かったのですが、塀の内側はトタンで覆われていて、外からは何も見えないのでした。中から聞こえてくる鋭い叫びはだんだんか細くなります。そのとき、未だ幼かった私にも、二つの命が私たちから遠く離れつつあるのが分かりました。涙があふれてきました。

 程なく祖父が、豚の耳やシッポや色々な内臓を持って帰ってきました。祖父は上機嫌でしたし、家中みんなも大喜びでした。祖母は直ぐに火を起こし豚の皮をあぶって毛を取り除くと、大きな鍋に全部入れて一時間余りぐつぐつと煮ました。部屋中によだれが出るような匂いが充満します。

 こうなると、現金なもので、今まで傷ついてわだかまりの有ったはずの私でしたが、上機嫌でみんなと一緒に久しぶりの肉のご馳走に舌鼓を打っていました。こんなにみんなが喜んでいるのですから、祖父のやった事に間違いは無かったのでしょう。

・・・・、豚の悲鳴、だんだん弱くなる叫び、そして消滅。その後に続く家族みんなで食べる豚肉のご馳走、その後も何回も繰り返されました。

 豚の存在意義は何処にあるのでしょうか。“生命の尊厳”てなんでしょうか。あの時から今に至るまで、私には答えられません。

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