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2006/05/15

10.妹の誕生  続

 数日の間、周りの人はみんな大忙しでした。祖母は卵や、魚をおいしく料理して、それをおばさんたちが順番に母へ届け、私もいつもおすそ分けに預かりました。

 そのうちに、周りの雰囲気にある変化が起こりました。気持ちが動揺しているのが、どうも私だけではないようなのです。周囲の大人の話から、私にも何となく事情が分かりました。母が又女の子を産んだことに、父方の祖母が怒っているというのです。

“女の子”をいくら産んでも、結婚したらよそのうちの人になってしまう。男の子だけが、家系を守ってくれる。男の子を産ま無いのは婚家に対する最大の不誠実だ・・・・。

そんなわけで、父方の祖母は、母と生まれたばかりの妹のお見舞いさえ拒否したのでした。男の子を産んで、最大の親孝行をしたいとずっと願っていた父が、妹の誕生に冷淡だったのはいうまでもありませんでした。

 祖母は当然、自分の娘が無事出産したのを喜んだのですが、母に対する婚家の対応に胸を痛めていました。このように色々問題はあったのですが、私自身は祖母の家で、相変わらず可愛がられて王女様のような生活を送っていて、妹に会ったのは数ヶ月先のことでした。

 張家の屋敷に戻ると、なんだかとてもよそよそしく感じられました。以前はなじんでいた周りの人たちとも何となくぎこちなくなり、挨拶しても心臓がどきどきしてしまいます。あの大きな隙間だらけの木のドアもずいぶん古びたように思えます。部屋の中には私の思い出が詰まっているはずなのに急に自分とは無関係に感じられるのです。

 ドアを開けて入っていくと、あの大きなオンドルの一番奥の壁によりかかりながら母は前かがみになって、赤ちゃんを抱っこしておっぱいを飲ませていました。私が部屋に入っていくと母は直ぐに身体を起こし話しかけました。

“あ、浩ちゃん、帰って来たのね!あなたの妹を見てちょうだい、可愛いでしょう!”そういいながら母は私の腕を引っ張ろうとしました。すると母の乳首が妹の口から外れてしまい妹は直ぐに激しく泣き出しました。私のほうに差し出された母の手は直ぐに引っ込められ、妹を優しくあやします。妹は泣き止んで、小さな手でしっかりと母のおっぱいを掴むと音を立てて吸い続けました。

 それから数ヵ月後、中国の“計画出産”政策がスタートしました。道路の両側、花壇の中、商店街の入り口、更には個人の家の塀にも“子供は一人”“家族は計画的に”“国家の指導の下、産児制限を”等々のスローガンが掲げられました。何処にいても、一寸顔を上げればその赤いペンキで書かれた文字が目に飛び込んできます。町中で、工場で、放送で“計画出産”の必要性が熱く語られました。

 しかし、父は寡黙になりました。彼の希望は消え去ったのです。“計画出産”政策は父に絶望をもたらしたようでした。

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