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2017/01/21

21 農村へ  続

叔母さんの家の近くには小学校がありました。夏休みが過ぎると、私は母が新調してくれた衣服を着て、転校の手続きをしました。この学校は、この村では唯一の小学校で、一学年に一学級しかありません。

クラスの子の大部分は今まで町に行ったことが無く、農村以外の世界を知りません。それでみんな興味津々の目で私を見つめ、私のことを“町の人”と呼びました。私は結構この呼び名が気に入りました。何となく優越感を感じられたからです。

 

学校は山あいにあり、周囲に塀もなく、運動場を横切るとすぐ裏山に登れます。

お昼休み、私たちは家に帰って昼ごはんを食べた後は、みんなで集まって、山に登り果実を探して食べます。

農村の子供は、自分のおやつは自分たちで見つけます。

みんなは私を引っ張って裏山に登ると、サクランボぐらいの実がたわわになっている木を指さします。

“これが今の旬の果物、カイドウだよ”

それまでにも山に生えている野イチゴ、野サクランボ…は当然みんなのおなかの中に入っています。

どの果実がどこに生えているか、いつ熟して、いつが食べごろか、みんなちゃんと知っているのです。

 

九月のカイドウの実は、黄褐色に熟し、その甘酸っぱい実は食いしん坊達の最高のおやつでした。

このカイドウは大木でした。男の子たちは慣れた様子で木の中腹に登ると、細めの枝を折って私たちに投げてくれます。女の子達は木の下で待ち構えていて、枝に着いた実をパッパと摘み取って自分のポケットに入れます。ポケットがいっぱいになると

“もう充分よ!”と叫びます。男の子たちはさっと木から滑り降りてきますが、全身毛虫だらけです。

 

ほかにも“臭李子”という実がありました。これは私たちが先を争って、時には友達を出し抜いてほおばったものです。熟したその実は、真っ黒で甘酸っぱく、ちょっとつまんだだけで濃厚な果汁が出てきます。私たちは木の下にしゃがんでひたすら摘み取っては食べ、摘み取っては食べと、他のことはみんな忘れてしまい、食べ終わると、口も歯も舌も、みんな真っ黒になってしまいました。口を開けて笑うと、そっと食べたつもりでも、すぐにばれてしまいます。

 

果実以外にも、皆は私を山菜取りに連れて行ってくれました。“ノビル”“キスゲ”“タンポポ”などなど。おかげで私は授業中教室にいる以外は、たいていの時間を山で過ごしました。

数日の内に私は村の子と同じ“野生児”のようにさっと木に登って果実を採ったり、小刀や錆びた鉄格子で山菜を掘り出し、山菜にくっついている土を落として、そのままかじったりしていました。山菜取りはしかし単なるお遊びでなく、たくさんとれた時は家に持ち帰って、夕飯のおかずになりました。自分たちの収穫で、家の人が喜んでくれるのを見ることは、それなりにうれしいものでした。

 

毎日このようにあたりが暗くなるまで帰らなくても、叔母さんは私を叱りませんでした。なぜなら村は大きくないし、家々はみんな知り合いなので、とても安全だったからです。

 

叔母さんは夕飯の用意ができると、門の前で大声で私を呼びます。

“浩(ハオ)ちゃん、ご飯よ!”

声は村中に響き渡り、村のみんなに聞こえます。

 “はい!” 私もすぐに返事して家に走って帰ります。

ところが叔母さんの発音は東北訛りが強いので、浩(ハオ)が“猿(ホウ)”と聞こえてしまいます。それで、村の遊び仲間は私を遊びに誘うとき、叔母さんの口真似をして、村の真ん中で“お猿さん遊ぼう!”と大声で叫ぶようになりました。

 

村ではそれぞれの家で畑を耕しています。それは学校から少し下った、みんなの家がある所との中間の小高いところにありました。

夏には一面にキュウリ、トマト、ナスが実ります。土の中にはネギやサツマイモやジャガイモなどが育っています。

夏になると私たちは、もうわざわざ山に行って果実を探さなくなります。誰かの家の畑からトマトやキュウリなどを取って衣服で土などをふきとり、そのままカブリつきます。

それをとがめて、子供たちをしかった人の話など聞いたことがありませんし、私たち自身も“盗んでいる”なんて思ったこともありません。

なぜなら、いつも畑の持ち主は私たちを見ると、自分で摘んできてくれるからです。

 

秋になってトウモロコシやサツマイモが熟れてくると、畑はもっとにぎやかになります。

それぞれの家で収穫したトウモロコシを持ち帰り、すぐに食べる以外は、棒にかけて庭に干し、乾燥したら、粒をもいで、すりつぶして粉にします。その粉を丸めてトウモロコシ団子を作り美味しくいただきます。

 

私たち子どもはというと、ますます大胆になります。

空き地の土が柔らかな場所に、手でかまどを作ります。それに拾ってきたトウモロコシの乾いた茎を入れ、火をつけます。その後近くのトウモロコシ畑から何本かのトウモロコシをもいできて、そのまま火の中に投げ込みます。

私たちは火を囲んで、怖い話をしゃべりながら、トウモロコシを時々ひっくり返します。

しばらくすると、トウモロコシが火の中でポンポンとはじけ始めるので、それを比較的火勢の弱いところに移してじっくりと焼き上げます。そのうちに香ばしいにおいが周囲に漂い始めると、ちょうど食べごろとなります。焼き上げたトウモロコシには黒い煤がついていて、それを食べている私たちの顔も、真っ黒になりました。

 

冬になると、私たちはまた山に向かいます。みんなダンボールをもって、その上に座り、だれが一番遠くまで滑れるかを競います。もっと刺激的なのは200メートル余りの坂にダンボールで道をつけ、プラスチック製の靴を履いて、坂の上から一気に滑り降りるのです。スキー板のないスキーでした。

 

農村の一年は四季を通じて、子供たちにとっては変化に富んだ、実に楽しいものでした。

 

カイドウ  ここでは“実海棠”だと思われます。日本では“花海棠”と呼ばれ、 花が美しいのですが、実付きは悪いようです。

 

臭李子   クロウメモドキに似ているのですが、日本ではあまり見かけないようです。

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