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2017/04/29

27  中高一貫校  続々

 

この女子中学校は歴史が長く、もともとは1930年代に、上流階級の子弟のために作られました。その後文化大革命を経て、“男女平等”の掛け声のもと男女共学の普通校に改編されたということです。

その後この学校は、再び“女子校”の存在意義を見出し、従来の女子だけの学校に改編されたそうです。私が転入した学年は復活二年目の学年にあたりました。

 

この女子中学が生徒募集に際しては、難しい筆記試験が課されるだけでなく、厳しい面接試験がありました。また学力優秀者が優先的に選ばれるのは当然ですが、美術やスポーツで特技が認められれば、特別枠で入学が許されました。そのため最終的合格者は、成績だけでなく、様々な才能にあふれた生徒が集まっていました。

こうした学校に、私は中途入学することになったのです。

 

当時は、“改革開放”政策が施行されたばかりでしたが、恋愛小説や格闘ものが破竹の勢いで市場を席巻していました。私たちの余暇の時間も、魯迅の難解な、面白みのない小説から解放されました。私たち乙女心は、小説の形で世の中に大声で公開され、世間に少しづつ受け入れられていました。

 

少女達は、恋愛小説を読めることが、自慢であり憧れでもありました。勉強に疲れたとき、白馬に乗った王子様が現れ、うっとりと見つめあう場面を夢見るのでした。

しかし現実は、私たちはまだおさなく、周囲には一人の男性もいないのです。白馬に乗った王子様どころか、男の人の声さえめったに聞こえてきません。

この教室には何か足りないのでは?

 

私は、年齢が小さかったせいもあり、思春期が比較的遅かったのかもしれません。そのためかって“出来損ない”と私を馬鹿にしていた教師たちを何とか見返してやりたいと毎日勉強に没頭していました。

そんな私の周囲では、女の子たちは、カバンの中に恋愛小説を忍ばせ、時々集まっては、男の子談義に花を咲かせていました。

 

私たちの学年の教師は、物理と化学以外は女性教師でした。半年後には、その物理の教師もなんだかわからないうちに女性教師に代わりました。

女性教師のヒステリックな甲高い声にうんざりしているとき、低い穏やかな男性教師の声は、私たちになんとない安らぎを与えてくれました。そのため男性教師は歓迎され、その授業を心待ちにする生徒もいました。

中には、男性教師の当日の下着が半袖か、長そでかとか、ワイシャツに洗い残しのシミがあるとか、どうでもいいことで真剣に議論している生徒もいます。

あれやこれやで、女子校の男性教師が感じるストレスはかなりのものがあったと思います。

 

当時は、生徒が授業中こっそり小説などを読まないように、私たちは両手を、後ろに組み、教科書のページをめくる時や、筆記するときだけ手を前に出すのを許されていました。

 

ある時、一人の級友が新しいハンカチを買いました。それには彼女の大好きな映画スターの顔が印刷されていました。

化学の時間、彼女はそのハンカチを取り出し、膝の上に広げ授業を聞きつつ、そのハンカチを畳んだり広げたりして時々、そのスターの顔を周囲に見せびらかします。

皆は背筋をピンとして、両手を後ろに回しているので、彼女の動きは際立って目につきました。

 

教師は近づいてきて尋ねます。

“何をしているんだ?見せてごらん!”

彼女はあわててハンカチを机の引き出しに押し込み、すまして答えました。

“何もしていません。何か見つかったら先生に上げます。”

私たちは興味津々で成り行きを見つめました。

 

こんな時、女性教師だったら間違いなく、女生徒を押しのけて、机の中を覗き込んだり、時には身体検査までして探し出すでしょう。しかし男性教師がそんなことできるわけがありません。

私たちは今まで私たちに怒ったことなどなかったこの男性教師が、この度胸のある、いたずら好きな女生徒にどう対応するのか興味津津で見ていました。

 

教師は一歩生徒に近寄ると、低く威厳を込めて語りかけました。

“僕は君が授業を聞いていないのがわかっていた。君が今隠しているものを出しなさい。そうすればこれからは授業に集中できる。分かったね!”

 

その生徒は、自分の身体を机にかぶせ、まるで挑発するような目つきで教師を見上げました。

“私は本当に何もしていませんでした。一生懸命授業を聞いていました。先生、早く授業を続けてください!”

 

教室は笑いに包まれました。いつも女子生徒の扱いに手こずっていた、この教師が、どうやってこの難局を取り仕切るのか高みの見物です。

 

教師は、生徒たちの物見高い笑い声の中、怒りで顔はみるみる赤くなりました。

彼は、勢いよく後ろの机を引きずり出して、その生徒の襟首をつかむと、彼女を後ろに引っ張りました。そうして彼女の机の引き出しから、例のハンカチを引っ張り出しました。

 

“わおー”という叫びが、教室のいたるところから沸き起こりました。

女生徒の顔は見る間に真っ赤になりました。一人っ子で大事に育てられ、生活の中で父親以外の男性から叱られた経験の全くなかった彼女でした。

 

それからしばらくして、その化学の教師は、女性教師に代わりました。その男性教師は、よその学校に移ったとのことでした。

その後まもなく、学校のトイレは大規模改修が行われ、男子便所は縮小されました。そうして放課後、学校の近くにたむろする男子学生の声以外には、私達にとって男の人の声といえば父親の声だけになりました。

 

当時、故郷の唯一の女子校は、思春期の難しい年ごろの少女達の扱いに戸惑っていたのでしょう。

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